この記事のポイント
ArcGISとQGISは、いずれもGIS業務で広く使われますが、レイアウトやレイヤー設定の内部構造は同じではありません。そのため、単純なファイル変換だけで完全再現するのは難しく、用途に応じて再設計の判断が必要です。
要点サマリ
本記事では、ArcGIS(ArcMap / ArcGIS Pro)とQGISにおけるレイアウト/レイヤーファイルの違いを整理し、互換性の実態を解説します。各アプリケーションのファイル形式や、再現しやすい要素・再現しにくい要素を比較しながら、ダイナミックテキストや式制御の考え方の違いにも触れます。異なるGIS間で成果物を引き継ぐ際の注意点や、機械的な変換では吸収できない差異への向き合い方を把握できます。
用語解説
- ArcGIS:Esri社が提供するGISソフトウェア群。本記事では主に ArcMap および ArcGIS Pro を想定し、業務で用いられる地図レイアウトや成果物を作成する環境として扱う。
- QGIS:オープンソースのGISソフトウェア。本記事では、ArcGIS と並ぶ比較対象として、 同様にレイアウトや成果物作成に利用されるGISとして扱う。
- レイヤー:本記事では、データそのものに加え、「データソースへの参照」「シンボルや描画ルール」「ラベル表示の設定」といった、表示・表現に関する設定を含んだ単位。
- レイアウト:本記事では、地図表示に加えて、「図郭・枠線」「タイトルや注記テキスト」「凡例、縮尺記号、方位記号」などを配置した、最終的な成果物の構成。成果物の見た目や情報伝達に直結するため、異なるGIS 間での再現性が特に問題となりやすい要素。
ArcGISとQGISの違いはどこから生まれるのか
GIS業務では、地図の見た目だけでなく、レイアウトやレイヤー設定の再現性が成果物の品質を左右します。ArcGISとQGISは広く使われていますが、同じように見えても前提となる設計思想が異なります。
解説
GIS 業務において、地図そのものだけでなく「どのように見せるか」を定義するレイアウト設定やレイヤー設定は、成果物の品質や再現性を大きく左右します。特に、ArcGIS(ArcMap / ArcGIS Pro)と QGIS は国内外で広く利用されているため、
- 異なる GIS 間で成果物を引き継ぎたい
- 既存資産を別アプリケーションでも活用したい
といったニーズは少なくありません。
本記事では、ArcGIS と QGIS におけるレイアウトファイル・レイヤーファイルの形式と考え方の違い、互換性の実態、再現できる点/できない点を整理し、最後に相互コンバートの可能性について触れます。
各アプリケーションのファイル形式はどう違うか
ArcMap、ArcGIS Pro、QGISでは、プロジェクトやレイヤーの保存形式が異なります。見た目が似ていても内部構造が別物であるため、単純な互換変換では扱い切れません。
解説
ArcMap(レガシー)
- MXD:マップドキュメント(データ参照、シンボル、レイアウトを一体管理)
- LYR:レイヤーファイル(シンボルや表示設定を保存)
ArcMap は長らく業界標準として利用されてきましたが、現在は ArcGIS Pro への移行が進んでいます。
ArcGIS Pro
- APRX:プロジェクトファイル(マップ、レイアウト、ツールボックス等を統合管理)
- LYRX:レイヤーファイル(ArcMap の LYR とは内部構造が異なる)
ArcGIS Pro では「プロジェクト」という概念が強化され、複数マップ・複数レイアウトを一元管理できます。
QGIS
- QGS / QGZ:プロジェクトファイル(QGZ は ZIP 化された形式)
- QLR:レイヤー定義ファイル
QGIS はオープンソースであることから、XML ベースで可読性の高い構造を持つ点が特徴です。

レイアウト表現と再現性にはどんな差があるか
レイアウトの見た目は似ていても、内部での管理方法や制御方法は異なります。そのため、レイヤー構成や基本シンボルは再現しやすい一方で、高度な表現は差が出やすくなります。
解説
レイアウト構造
- ArcGIS:マップフレーム、凡例、縮尺記号、テキストなどを「レイアウト要素」として管理
- QGIS:レイアウトマネージャ上で、より自由度の高い配置・制御が可能
見た目は似ていても、内部的な持ち方や制御方法は大きく異なります。
再現できること・できないこと
-比較的再現しやすい要素
- レイヤー構成(表示/非表示、描画順)
- 基本的なシンボル(単色塗り、単純な線種)
- ラベル表示(フィールド参照のみの場合)
-再現が難しい/差が出やすい要素
- 高度なシンボロジー(ルールベース、式依存の描画)
- ラベルの細かな配置アルゴリズム
- レイアウト内テキストの動的制御
ダイナミックテキストと式制御は何が違うか
ArcGISとQGISでは、レイアウト内テキストの扱い方に思想の違いがあります。ArcGISは定型的な動的表示に強く、QGISは式や条件分岐を用いた柔軟な制御が可能です。
解説
ArcGISの場合
ArcGIS では、図面枠外の整飾部において、
- 日付
- 縮尺
- レイヤー名
などを ダイナミックテキスト として表現できます。
ただし、
- 条件分岐(if 文的な制御)
- 値に応じた表示切替
といった柔軟な制御は基本的に想定されていません。
QGISの場合
QGIS では、レイアウト内テキストに式(Expression)を利用でき、
- 条件分岐による表示内容の切替
- 属性値や変数に応じた動的表現
が可能です。これにより、
- 出力条件ごとに文言を変える
- 特定条件時のみ注意書きを表示する
といった運用が実現できます。
この思想の違いは、単純な見た目以上に「運用設計」に影響を与えます。
互換性を考えるとき、どう向き合うべきか
ArcGISのLYR/LYRXとQGISのQLRは直接の互換性がなく、単純なコピーでは完全再現できません。移行や併用では、再現できる部分と再設計が必要な部分を分けて考える必要があります。
解説
- ArcGIS の LYR / LYRX と QGIS の QLR は直接互換ではない
- シンボル定義やデータソース参照方法が異なる
- 同じ見た目でも、内部表現は別物
このため、単純なファイルコピーで完全再現することは困難です。
FAQ
Q1:ArcGISのLYR/LYRXはQGISでそのまま使えますか?
A:いいえ、直接互換ではありません。
シンボル定義や参照方法が異なるため、単純な読み込みでは再現しきれないことがあります。
Q2:見た目が同じなら、ファイル変換で十分ですか?
A:いいえ、十分とはいえません。
レイアウト内テキストや動的表現、ラベル配置などは、アプリケーションごとの設計思想の違いが影響します。
まとめ
ArcGISとQGISは、どちらが優れているかを単純に比較するのではなく、想定している運用思想の違いを理解することが重要です。
ArcGISは定型的な成果物の安定運用に強く、QGISは式や条件分岐を使った柔軟な制御がしやすい特徴があります。異なるGIS間でレイアウトやレイヤー設定を引き継ぐ際は、単純変換で済む部分と再設計が必要な部分を切り分けることが大切です。
まずは、既存成果物のどの要素を維持したいのかを整理することから始めるとよいでしょう。
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